車大工 (1976)

　　『車大工』1976年の作品。
　　はじめ宮大工のことかと勘違いしたが、
　　祇園祭とかの山車の車輪の部分を専門につくる大工さんのこと。
　　最初に、大きな木の塊を、真ん中をくりぬいて、車軸の部分をつくる。
　　80歳くらいの腰の曲がったおじいさんが、
　　長年の体にしみついた技で、手際よく、線をひいたり、
　　３種類の「のみ」で細かく削っていく姿に
　　思わずじっと見入ってしまった。
　　使い込んだ曲尺（直角に曲がっ...展开た物差し）は
　　まるで自分の手の延長のよう。
　　車軸部分に円形の金属製の輪をはめて、
　　強度をつける以外は、
　　ねじや金具は一切使わず、
　　木の先端に凹凸をつくってはめ込んでいく。
　　輪の部分も全部木。
　　丸い円を何等分かに分けて、組み合わせていく。
　　軸受けから放射状に延びる、12，13本のスポークの部分にしても、
　　幅も太さも10センチ以上はある、長方形の長い材木だ。
　　軸受けの凹部分にうまくはめこめるよう、
　　先の部分を、少し削って、試してと、
　　何度も加減しながら、合わせてゆく。
　　少しでも無理があれば、車は加重のために
　　ばらばらに壊れてしまうというから、
　　まさに神業に近い。
　　木が「あばれる」から遊びの部分がいるとか、言葉もおもしろい。
　　大きな金づちを振り下ろしたりという力仕事は、
　　もう50歳は超えているであろう息子が受け持つ。
　　親子ならではの、気心は知れているものの、
　　物づくりに賭けたこだわりがぶつかりあう。
　　息子にしたら「もうええやろ」だけど、
　　父ちゃんとしては「まだまだ、もうちょっと」
　　息子も疲れて思わず「それなら自分でやってや～」と
　　言いたくなるような時も、きっとあるであろう。
　　職人気質を受け継いだ息子さんも辛抱強く、やさしい。
　　車輪ができあがった時には、老人の背丈ほど大きく、
　　鎖で機械を使ってしか、持ち上げられない。
　　毎朝、早く起きて、夜7時には床につき、
　　木と向き合ってきた長年の歳月と修練による
　　技の凄さにただもう圧倒された。